10月31日
10月31日
審査員講評
ピアノ/フルート/声楽/バイオリン
各部門審査員のなかから代表の先生に
講評をお寄せいただきました
【全体の印象】 「レベルの高い演奏が多かった!」というのが、審査会全体の感想でした。当然ながら、演奏者それぞれに美点も不足する点もあり、それを勘案しながら差をつけることは非常に難しく感じられました。拮抗した高度な数々の演奏をどのように評価するのか、翻って、審査する側の観点もまた審査される結果となったと感じます。演奏の傾向には二通りあり、一つはピアノを自在に扱いつつ他を圧倒する見事なテクニックを見せる方向の演奏、他の一つは作品に寄り添ってその魅力を感じ、「聴き手に伝える工夫」が窺われる演奏です。 【小学生部門で感じたこと】 指定されたハイドンとモーツァルトのソナタの中から選択、「全楽章」が演奏されました。ピアノ作品の重要な基礎となるこの課題では、概観すれば各楽章相互に関係付けられたイメージ、細かく見ればテンポ設定やフレーズの構成力、細部に立ち入れば(音楽の言葉の役目である)モティーフの表現の適切さと、繰り返される時の変化、基礎的な和声感とその変化,長いフレーズのキープ力に加えて自由な即興性など、簡素な記譜の中にもかかわらず、評価の基準は様々に挙げることができます。 第1楽章、第3楽章の様に速いテンポの楽章では、小学生とは思えないような見事なテクニックが次々と披露されました。ですが、「とにかく速く、とにかく見事に」を求めすぎた演奏が多く、基本のカウントが崩れ、その音型がもつ重要な役割や意味合い、こまかく分割されたリズムと組み合わせの面白さ、アップダウンする音型の「わくわく感」や、移り行く和音の「色合い」などが聴き取れない結果となった演奏が多く、残念でした。評価の「大きな分かれ道」になったのは第2楽章です。歌を基本とするこの楽章は、ゆったりとしたテンポの設定が多く、長いフレーズで構成されています。これを上手に進行させるためには、「和声のフレーズ」を長い距離感で理解し、まとまりに沿って(歌のブレスに相当する)「溜め」を心身に用意すること。細部を見れば、(言葉に相当する)「モティーフのイントネーション」を正しく理解して表現を研究することでしょう。作品に適った説得力のある大人らしい演奏もありました。一方では表情に変化をつけようと力むあまり、不自然にクレッシェンドやデクレッシェンドしたり、テンポを速めたり、聴き手として安定感のない演奏も多かったと思います。(外国語の発想ですので)言葉を用いた歌曲やリートなどに日頃から親しんでいることが助けとなります。また。この時代はアンサンブルやオペレッタなどが主流な時代でしたので、作曲家はその世界を鍵盤楽器にも求めていたことが想定できます。音楽を総括する指揮者を自分の中に存在させることは大きな力となることでしょう。 【中学生部門で感じたこと】 課題は古典派からロマン派の作品へと選択肢が広がり、ハイドン、シューマン、ショパンが演奏されました。ピアノが進化したこの時代は作曲家それぞれが「個性を打ち出す」作品が多くなりました。同じロマン派に括られながらも、ショパンとシューマンには大きな違いがあります。ショパンは自分自身で「私は古典」と認めたように、しっかりとした形式を持っています。その一方で、飛躍的に進化を遂げたピアノの機能と響きを作品に自由に盛り込んでいます。整然とした「建築的な部分」と遊び心満載の「即興風」な部分の弾き分けは必要です。その一方でシューマンの独自性は、身近に溢れる日常的な景色や心情を「表題」で明示し、(バッハの時代に多用された)対位法と、古典的和声を進化させた「微妙な和声感」で豊かな表現を生み出しました。そこで表現されている「個人的な感情」が、ロマン派の時代を象徴しています。それらの作品を表現するためには、それぞれの表現スタイルに加えて、演奏者自身の作品への「共感度」の高さや「演奏熱」も必要となります。具体的には、高度な技術―高い音から低い音までの幅広い音域を素早く行き来するパッセージを多用した技巧的音型を安定して演奏できる「テクニック」―の獲得はもちろんですが、広い音域をもつピアノの音域毎の質を熟知し、多彩な音色を瞬間的に生み出せる様々な「タッチ」の工夫、多層で書かれた音楽の「バランス」に配慮した表現、その計画、総合的に言えば、表現に結び付いたテクニックの研鑽が要求されます。特に残響を調節するペダルの効果的でデリケートな使用には特段の考慮が必要でしょう。 【高校生部門で感じたこと】 バロックから現代までの幅広い作品が自由選択されました。広範囲に及ぶ作品演奏のためには、音楽様式を的確に理解することが必要です。その上で、演奏者の個性をベストに表現できる選曲が大きな鍵となることは言うまでもありません。作品に寄り添って、いろいろな研究が必要でしょう。その時代の社会・文化的な背景は、作品を生み出す大きなエネルギーとなっています。演奏者の素養は、音となって感じられるものです。 規模の大きな作品には作曲家の大きな構想があります。それを十分に聴き手に伝えるためには、演奏を展開するための全体構想(作品の様式や構成・形式)の把握は勿論ですが、それを実現するための用意周到な演奏計画と、加えて会場の響きを考慮しつつ上手な利用を考慮しておくことです。特に適切で多彩なペダル使用法については、どれだけ多様な響きを創り出せるかを念頭に日頃から研鑽することが、ここ一番の演奏の成功へとつながる道でしょう。 【将来への期待】 ピアノは不思議な楽器です。「キーを打って音を出すという意味で打楽器ともいえる…」とは、使い古された表現です。はっきりとしたタイミングで音楽空間を区切ることや多くの音を重ねられる点では他の楽器に比べて優れていますが、音楽には欠かせない「音の長さを保つことや残響に思いを致す」ことなく、無意識に演奏してしまう危険性も持ち合わせています。広い会場の演奏では、正確に打つだけのテクニックに終始すると薄い印象しか残りません。ですが一音一音にイメージをもって縦と横に重ねていくことを計画的に構成すると、びっくりするほど立体的でドラマを感じさせる空間を創り出すことができます。 練習する日常において、「音楽を伝える」ことを念頭に、磨きをかけた成果をいつも求めたいと思います。時代を通じて作曲家の構想にはピアノだけではなく、アンサンブルやオーケストラ、歌のイメージが盛り込まれてきました。また、時代を経て磨き上げられた優雅な音楽だけではなく、土着の民俗音楽的要素も組み込まれていくことにもなりました。そのリズム感や歌いまわしは一朝一夕で自分のものにすることは難しいです。日頃から現代も含め広く多くの音楽的な興味を増やすことや、いろいろな文化や風土に折に触れて親しむこと、つまり「自分で自分を育てること」が、今後、「大人の演奏」を実現する鍵となるでしょう。
【小学生部門】 今回はただ一人の参加となり、寂しい審査となったがモーツァルトのアンダンテを演奏した出場者は、小学生の小柄な体では息が続かないであろう長いフレーズを見事に吹ききりました。 ただし、息は続いても音が不安定です。今後はテクニックの向上、かつ良い演奏にたくさん触れて技術と音楽センスの向上に努めたいです。 よく学ぶこと以上によく遊び体力をつけることが将来に大きく影響するでしょう。 【中学の部】 5人とも正直殆ど差はありませんでした。そのため審査も点数の差が殆ど無く、僅差で順位を分けました。緊張の中、思ったようには演奏できなかったとは思いますが、本番の演奏こそがあなたの実力であるとも言えるのです。結果に一喜一憂するのではなく、今回の演奏を通じて今後の課題をできるだけ多く見つけられることこそが、コンクールを受ける意義だということを肝に銘じて下さい。 <出演番号1番> しっかり息が出ていて音をまっすぐ素直に伸ばすことが最初はできていましたが、次第に音程が上がり、特に高音ではそれが露呈してしまっていました。耳は良いと思います。常に冷静に、また興奮しても頭の中半分はクールに保って演奏して下さい。音楽的なセンスを感じることができる人だと思います。 <出演番号2番> 音楽を表現するための音色作り、特に低音を鍛えて響きを得て下さい。1日の練習の半分を低音の音作りに使うぐらい、というほどあなたにとっては重要なことです。 <出演番号3番> 綺麗な音色なのですが、音色の中にエネルギーがないのです。そのため、演奏に若干の不安要素を感じてしまいます。中音のCisが異常に高いのは奏法的問題です。頭部管の角度、抜き方など、顎や喉の連携など、根本的な奏法の見直しが必要です。 <出演番号4番> 綺麗な響きです。ただ息が十分に出ていないので表現にまでたどり着けません。音程は良くコントロールされているのですが、常にクールな印象で、もう少し音楽を歌おうとして欲しいです。 <出演番号5番> 優しいフルートですね。綺麗に吹けていました。ただそれだけでは音楽になりませんね。表現しようという情熱が音楽には絶対に必要なのです。その点で少し物足りませんでした。 【高校の部】 今回の課題曲がモーツァルトということが、非常に実力が分かりやすいという結果をもたらしました。 様々なモーツァルトを聴くことができましたが、反面欠点がはっきりと露呈されてしまいました。モーツァルトをコンクール向けに脚色することなど絶対あってはならないことなのです。結果は非常に滑稽なことになりかねないからです。正統的解釈を模索し、虚飾を排除した旋律を演奏することのみに集中する必要があります。 <出演番号1番> 全体的にピッチが不安定で高い傾向にあります。まるでフワフワと音が浮いている、そんな印象でした。音を素直にまっすぐ伸ばせるよう、そしてピュアな表現を心がけましょう。 <出演番号2番> 脚色が多すぎるモーツァルトというのはいただけません。コンクール用にデザインされたような意図的なものは純粋な音楽を阻害してしまいます。モーツァルトに限らず素直に自然な流れをつくる習慣をつけましょう。 <出演番号3番> この曲が協奏曲であることを意識して下さい。要するにピアノ伴奏と言えども、オーケストラがバックであるということです。そのための響きが不足しています。体力をつけて必要な音量と響きが今後求められるでしょう。 <出演番号4番> 丁寧に演奏することはとても良いのですが、それがテンポの停滞を招き、大胆な表現が欠如する結果を招いてしまっています。自分に酔うことを捨て、演奏を楽しみ、聴いている人を喜ばせるような演奏をしましょう。 <出演番号5番> テンポが地団駄を踏んでいます。そういう意味では印象に残りましたが、軽快さに欠ける結果を招いてしまいました。 <出演番号6番> 音を後押しする傾向があり、フレーズ感を阻害しています。旋律の歌い方が切れ切れになっていて、歌い切れていませんね。でも音楽をしようとする気持ちは今後必ず実を結ぶことでしょう。響きが少々弱いので、その改善に集中して研鑽を積んでください。 <出演番号7番> 圧巻の演奏でした。解釈もある程度できていて主張も盛り込まれた素晴らしい演奏でした。ただ、惜しいのはフルートの響きが足りない点です。よく鳴っていても響きが足りない。今後奏法の改良が必要になります。フルートは鳴らすのではなく、響かせるということを念頭にステップを進めて欲しいと思います。響きを手に入れた将来の姿が楽しみです。 <出演番号8番> 高校生としては異例の音色を持っていることが最大の武器となりました。ただ、一直線に突き進む一辺倒で攻撃的なモーツァルトになってしまった事は残念です。今後その場面のそれぞれの表情に合ったテンポや音色感など、さまざまな表情を織り交ぜられるようなクレバーな演奏を期待したいです。 【総括】 フルートの奏法は進歩しています。少なくとも10年前とはまるで違うのです。大きな音を求めると、音程が高くなり、小さな音で低音を吹くと下がります。そういう楽器的欠点と戦ってきたのがフルートの歴史でした。しかし、今はそうではないのです。なぜなら音程は少なくとも音量音域に関わらず、しかも純正調でぴったり合っているのが当然だからです。音量を求めることを捨て、脱力し、少しの息で最大限の響きと良い音程を得る。今はそういう時代なのです。 そういう意味で今回の出場者全員が旧態依然とした奏法を披露してくれました。当然と言えばそれまでですが、全員が音程の問題を抱え、フォルテで音程が上ずる事さえも気にすることなく、中音のCisは水道の蛇口が開け放たれたかのように垂れ流したように音色が崩壊し、音程が4分音ほども上ずっていました。音程が外れるということは、ピアノで言えば鍵盤を間違えて弾いているのと同じ事というのを管楽器奏者は自覚しないといけません。 また、今回バロックならびに古典音楽を演奏する上で最も重要な「楽曲の解釈」を感じられる演奏が全くなかったことは大変残念なことです。例えばトリルは上からやればいい、とかいう単純な問題ではないのです。奇妙な長さの前打音や、トリルの問題など些細な不自然さが満載のテレマンとモーツァルトだったことはここで強く述べておきたいです。解釈は流行とかそういう軽率な事ではなく、音楽の普遍的絶対的な要素なのです。教える先生方もそれを一生の課題として日々進歩を欠かさず、生徒さんにも師の背中を見せながら教えていきたいものです。
【中学校の部】 中学校の部に出場された5名の皆さんには、それぞれに声の素材の良さが見受けられました。全体としてしっかりと訓練を受けられているようで、基礎を大切に演奏されていました。中学生にもかかわらず全員に落ち着きが感じられ、心地よい空気感をつくり出していたことに驚かされました。それぞれの方の声の持ち味を大切にして、さらに成長して頂きたいと思います。 【高校の部】 高校の部本選では8名の出演者があり、そのうち2名は男性でした。全体的にレヴェルが高く将来の可能性を感じさせる優れた人材が多かったと思います。情感のある歌声、軽く響きのある歌声、あるいは豊かな大らかな歌声と持ち味は様々でしたが、出場者の皆さんが音楽的にも発音の面においても的確に学んでおられ、それを丁寧に演奏されていることに感心しました。日本歌曲を選択した方の、美しい日本語も印象に残りました。今後も、自分の声にあった無理のない曲目を選択し学んでいってください。 【大学の部】 大学の部本選は8名の演奏がありました。そのうち3名は男性でその中の1人はカンターテノールでした。どの出演者も既に高い演奏技術を備えており、概ね声に合ったものが選曲されていました。女性はもちろんですが、近年男性のレヴェルが高くなってきていると感じられます。皆さんが技術的に立派に演奏されていたのですが、それだけに審査員側から要求されることも高くなってきているようです。ここでは大学の部の皆さんの更なる研鑽の参考として頂けるよう、審査員会としてのアドヴァイスをお伝えします。 演奏後の審査会において、大学の部に出演された方々に求められるものとして話題となったキーワードは、呼吸、言葉、そしてフレーズ感でした。オペラアリアであれば歌われる場面や心情などを理解することは当然なのですが、それらを表現するための呼吸はいつも同じではありません。呼吸は音楽表現のためのすこぶる大切な要素であることを認識していただけたらと思います。 次に言葉に関してですが、同じ単語でも劇中の心情を表す言葉のニュアンスは様々です。言語をより確実に会場に伝えることと同時に、役柄と場面から要求される言葉のニュアンスは如何なるものか十分に吟味して演奏して下さい。 三つ目のフレーズ感については、伴奏部の和声上の流れを分析的に理解したうえで、旋律ラインの方向性と収束への意識を持つべきという指摘がありました。総じて申し上げるなら、良い声で聴かせるということに留まらず、上述のような様々な表現上の配慮がなされ演奏すること、このことが本審査会の総意として大学の部の皆さんにお伝えしたいアドヴァイスです。これからも続けて学ばれ、歌うことの奥深さと喜びを味わっていってください。
小学校1年生から大学生まで総勢45人の北海道でヴァイオリンを勉強している人達の熱心な演奏を楽しく聞かせていただきました。
基本的な音程やリズムはほとんどの人がかなりの精度で正しく演奏できていたと思います。北海道の指導者の先生方のご指導の賜物ですね。
より正確な和声的な音程や、フレーズや拍子に即した音の長さや響きの作り方、曲の構成などは、色々な時代の曲を沢山コツコツ勉強して身に付けて欲しいと思います。
コンクールは豊かな音楽体験を積んでゆく1つのステップです。是非音楽を感じて楽しむ事を忘れず、音楽と共に豊かな人生を歩む人になって欲しいと願っています。