10月20日
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ピアノ部門 審査員
練木 繁夫(ねりき・しげお)先生
蝉の声が瞬く間に消え、身体が季節に追いつかないまま秋になった。本選を迎えた10月下旬は遠くに紅葉が見え、演奏活動が皆無になった半年を思いながら会場のある公園を進んだ。
子供達がこの舞台を踏むまでには本人の努力は勿論のこと、教師による熱心な教育、家族からの見えない援助があってこそなし得るものだが、今年はコロナ禍での開催もあり、舞台で演奏ごとに鍵盤と椅子を丁寧に拭いて下さった担当の方、また開催に携わって下さった事務局の方々にも、審査員を代表して感謝の気持ちを届けたいと思う。
音楽を点数で評価するシステムは難しい任務である。世界のコンクールの長い歴史を鑑みても公平な審査が行われたという事実は定かではない。それは、才能を見出す場であるコンクールの結果は、5年後または10年後の才能の開花に託されているからである。
結果は、ある意味での最終地点ではあるが、言い換えてみればそれは長い未来への出発点でもある。規定により全国大会に進めるのは2名となっているが、中学生部門と高校生部門では、選出された2名に加えて、あと2名は全国大会に進める実力を備えていたと思う。また子供達は、それに匹敵する力強い演奏を堂々と披露した。選ばれなかった子達に対しては審査員全員が歯痒い思いを抱いたと思うが、それほど、予選も含めて北海道地区のレベルは高かった。
最後に、年齢と共に短気になっているのですみません、小学生の演技について苦言を一つ。大袈裟とも感じられる演技は(中学生部門からは見られない)もし万が一にでも、本人以外に演出家が介在するのなら、それが余りにも作為的で下手な理由から、音楽は決して視覚に訴えるものであってはならない、と言うことを子供達に教えて頂きたいと思った。
今回遭遇した多くの才能が、どの道を選んだとしても、このコンクールでの結果が更なる大きな成果に繋がることを切望して終わります。
フルート部門 審査員
森 圭吾(もり・けいご)先生
【全体評】
現在の中高生のフルート技術レベルは、テクニカル的には毎年のように格段の進歩を遂げ、プロも苦労するような難曲をいとも簡単に演奏するような時代となりました。しかし、それは内容を伴ってすばらしい演奏であるかというと必ずしもそうではありません。指導者の皆様におかれましては、基礎トレーニングもさることながら、技術の習得だけに専念させず、音楽的な内容のトレーニングに注力願いたいです。技術的にいくら長けても内容の乏しさは年々助長されているからです。
また審査する側もそのことを念頭に置いて審査されるべく努力をして参りたいと思います。そういった意味において、審査結果はその各審査員のレベルにおいて必ずしも、一致した見解となっておらず、審査結果が受験者の優劣を決定するというものではないことを念頭に講評をお読み頂きたいと存じます。従ってこの結果に一喜一憂する必要はなく、今後もあなたの指導者の的確であろうアドバイスとともに、音楽を追究されて行くことを願っています。
また釈迦に説法ではありますが、また指導者の方々におかれましても、フルートを教えるという事において、単にフルート教師としてではなく、教育者として生徒さんの人間形成に注力なさることが、より生徒さんの音楽的成長を促す結果につながることを念頭にご指導に励んでいただきたい。そして、生徒さんをご自分の範疇だけに留めず、様々な音楽的な経験を積ませ、教師自身もこれまで培った音楽的な経験だけに固執するのではなく、より広い見地に立った知識や技術力を旺盛に磨いて頂きたいと切に希望します。現在においてフルートは楽器においても奏法においても新しいステップに進んでいて、旧来の奏法はすでに過去の物となっています。そういった意味からも、教師自身が勇気を持って過去から脱却し、ステップアップを遂げなくてはなりません。
講評は例外的ではありますが、出場順番で個別に述べさせていただきます。
なお、以下の講評は個別ですが、どの出場者にも当てはまる問題を全員が抱えています。自分以外の出場者の講評も読むことをおすすめします。
【中学校の部】
出場番号1 美しい音色を持っています。若干細めでか弱さを感じます。タンギングをすることによる音色の劣化があります。タンギングに特化した練習曲を取り入れてください。中音(五線の中の)Cisの音程が高く、このことは基本的な息の角度が間違っていることを表しています。もっとも楽器が響くポイントを探してください。フォーレにおいては、テンポに多くの自由とこの曲の題名であるファンタジーが必要です。多くの名演奏家の録音を聴いて参考にしてみてはどうでしょうか。音色感がとてもいいので将来が楽しみです。
出場番号2 暖かい安定した音色を持っています。また、技術的にも丁寧で几帳面な演奏は安定感があります。ただ、音楽的なアプローチは非常に弱く、この曲の題名でもあるファンタジーを感じる事は出来ませんでした。もっと自由に心揺さぶられる音楽を目指してください。一人目の講評にも書きましたが、タンギングの能力がこの曲に追いついていません。タンギングに特化した練習曲を日々の練習に追加してください。
【高校の部】
出場番号1 とても暖かい音色ですが、核になる音色の芯がありません。トーンホールに一点だけ、もっとも良い響きのするポイントがあります。そこに的確な量の息を当ててやれば、フルートは無理なく響いてくれます。技術的には、まだテクニックが不足しています。タファネル・ゴーベールを用いて、スケールだけではなく、インターバル、アルペジオの練習をたくさんやってください。ピアノとのピッチの差が気になりました。高すぎたのです。高音でフォルテを吹いても高くならず、低音でピアノを吹いても低くならない、そういうセッティングと奏法を模索して下さい。
出場番号2 透明感のあるとても美しい音色です。しかし、どんな美味しいお菓子もそればかりでは飽きてしまいますよね。もっと大胆な表現とそれをささえる音色と音量のバリエーションが絶対に必要です。また、常にピッチの高さが気になりました。予選での暗譜忘れが、本選でも出てしまいましたね。おそらく暗譜のやりかたの問題です。普段から一度暗譜したものは譜面を見ないで練習するという習慣を付けてみてはいかがでしょう?
出場番号3 音の響きはとても良かったです。しかし、安定しきったゆっくり目のテンポは緊張感が持続出来ません。それはモーツァルトにおいても、メロディーにおいて速い性格のものもあれば、ゆったり歌いたい旋律も存在し、その変化を楽しむことが出来るのです。あなたが普段友達とお話しているように、音楽を言葉で心で感じ、それを聴衆に伝えることが大切なのです。今回はその意味において、言葉が感じ取れませんでした。
出場番号4 とてもフルートという楽器をよく鳴らせていました。ただ、ステージの上で表現に消極さが感じられ、実力を出し切れませんでした。消極的になるとテクニックすら影響を及ぼしてしまい、冷静でなくてはならないはずのコントロールという一面において精神的に追い詰められ、結果ミスや、こういうはずでではなかったという、後悔がステージの上で押し寄せて来ます。演奏は精神的にはいろんな意味で攻撃の応酬なのです。心を穏やかに、そして楽しみ、悲しむ。全身全霊で歌を聴衆に届けること、そんな音楽を目指してください。
出場番号5 柔らかい音色の持ち主です。ただ、呼吸法とアンブッシャに問題があり、強く吹けば音程が上がり、弱く吹けば下がるという基本的な問題があります。この問題はあなただけでなく、今回出場した全員に見受けられる問題です。完全に脱力した状態で、唇に負荷をかけない奏法が今は世界の主流となりつつあります。とりあえずは脱力状態で強弱による音程の変化がないようにロングトーンを行ってみてください。ユーチューブでデニス・ブリアコフが「音曲げ」の練習を解説しています。参考にしてみて下さい。https://youtu.be/5u3VYim6OcY
出場番号6 暖かい音色の持ち主です。しかし音色に核になる芯が乏しいです。体を動かしすぎてしまい、音楽の流れをその動きが邪魔しています。とても勿体ないことだと思います。たとえばあなたが歩く廊下モグラたたきのマシーンだったすると、モグラに邪魔されてとてもまっすぐ、好きなスピードで歩けませんよね。それと同じことが、モーツァルトにおいて起こっていたということです。音楽を表現しようとする気持ちが動きに現れるのは良いのですが、リズムやテクニック上の都合で動くと、力みを生み、アンブッシャも楽器とずれてしまいます。
出場番号7 太くて安定した音です。ただ、音楽を演奏する音色というものは絶対に明るくなくてはならないのです。そういう意味において、ゆったり目のテンポ感と相まってモーツァルトという、とてもチャーミングな音楽には合っていませんでしたね。奏法的には低音の音色が開いてしまって、楽器の持つ響きを壊してしまっています。息の出し過ぎによるオーバーブローと言うのですが、そのために低音の音程が大きく上ずってしまいました。フルートの歌口の穴はとても小さいのです。もっとデリケートな音色作りと、そして軽快なテンポ感の獲得が今後の課題です。方法は、フルートに留まらず、様々な素晴らしい演奏家の演奏をたくさん聴くことです。
出場番号8 かなり緊張してしまいましたね。自分の実力の半分も出し切れなかったと思っていることでしょう。呼吸は浅くなり、ブレスが多くなり、いつもの音が出せない。そんな状態だったのではなかったと想像します。緊張を打破するにはバックステージでの本番直前の行動がポイントになります。軽いストレッチをして、少し筋肉や筋をほぐしてやるのも一つの方法です。演奏的には序盤でのインパクトは重要です。自分自信を音楽の流れに乗せるためにも、スタートダッシュの呼吸を整えられるような普段の練習、音楽作りと、その準備をしましょう。
バイオリン部門 審査員
植村 理葉(うえむら・りよ)先生
【全体評】
幼児の部以外は、今回予選、本選と聴きました。本選では曲が難しくなり、苦労した人も多かったことと思います。
音楽的にとてもよいものを持っているのにテクニックがまだ追い付いていない人もいるし、とても安定しているけれど立体的な音楽になればもっと魅力的になる演奏、音もしっかりして派手だけれどフレーズが時代の様式に叶っていないのが目立ってしまう人、逆に様式感とセンスはとてもいいけれど他の大柄に演奏する人の方が評価されてしまっていたり。平面上に比べられるものではないです。
私が小学生の時に師事していた尊敬する先生は、「コンクールはお祭りよ」と言っていました。
みなさん、信頼できる先生方に習っていることと思います。自らの感性を大切に、探究心をわすれずに、先生のいうことをよく聞いて作品の良さが伝わる演奏ができるよう、これからも益々励んでください。
【学コン課題曲コース】
小学生のモーツァルトのロンドはそれぞれにモーツァルトらしく愛らしく楽しめる演奏でした。
中学生のカルメンは難易度が高かったようですね。テクニック的に難しくてもカルメンの性格の強さが表現できるかが注目されました。
高校生のシベリウスは湖の国フィンランドの雰囲気が出てテクニックも安定していました。2楽章のフレーズが長くなると更に良くなると思います。
【一般コース】
幼児の部は、ヘンデルは少し音程が高めでしたがヘンデルのすてきな音楽が聞こえてきました。ハンガリー民謡は立派なはきはきとした演奏。リズムははっきりしつつ音楽にしなやかさも出てくるとさらによいでしょう。努力賞の子たちも基礎の力もつけながら、すてきだなと思う感性を大切にして音楽を奏でて行ってください。
小学校1年生の部では、銀賞のリーディングのロマンスはゆったり流れに乗って演奏し、フラジオもよく鳴り、好感が持てました。金賞のザイツの3楽章では、流れが自然でしたが、短調の部分で流れが停滞気味だったのが、惜しまれました。ゆったりとしたテンポでも音楽の流れにのっていけるとよいです。銀賞のザイツでは柔らかさも加わるとより表現の幅が出てきます。奨励賞のバッハは、音を追うことだけでなく、楽しむ気持ちも大切にしましょう。努力賞のバッハは音楽的にはとても好感が持てますので、最後まで見通せる力をつけていけるとよいです。奨励賞、努力賞のザイツはこれからもたくさん音楽を聴いたり曲を勉強して力をつけていってください。これからも楽しみにしています。
小学校2年生の部は3人とも同じ曲を選びましたが、出だしの8分休符の呼吸が難しそうでした。個性は異なるけれど完成度の高かった2人が金賞になりました。
小学校3・4年生の部金賞は、弓の配分の計画性、装飾音のセンス、音楽的にも説得力のある演奏でした。銀賞の人は良いところもあるので、そういった構成力があると音楽がより聞こえてくるでしょう。銅賞はフレージングや流れは自然なので、音程がより明確になるようがんばりましょう。ラ・フォリアは4の指がもう少ししっかり音程をとれるようにしましょう。また、バリエーションによって音程が高くなったり低めになったりしてしまいました。
小学5・6年生のカバレフスキはとても自然でバランスの取れた演奏。リズムの激しさがもっと出るとさらに生き生きします。ヴィタリのシャコンヌでは、音はしっかりしていますが様式に則ったフレージングや自然な流れが求められます。モーツァルトとクライスラーでは曲のどんなところが好きか考えてみましょう。
中学生のモーツァルトはセンスや様式感がとてもよかったので、広がりのある音が出ると更に魅力が出るでしょう。ただ、時折音程が不安定なのが惜しまれます。
ブルッフ、ラロは、ヴュータンでは曲のキャラクターや構成がよりはっきりして、かつ流れが自然になるとよいです。
高校生のチャイコフスキーは、野太く田園的な演奏でしたが、音楽的、テクニック的にムラがないようにできるようにしましょう。
声楽部門 審査員
杉江 光(すぎえ・こう)先生
【中学校の部】
皆さんとても素直な発声で美しい声が出ていた事、本当にうれしい気持ちで聴かせていただきました。また、丁寧な音楽表現もとても良かったです。コンクールですので金銀銅の序列はついてしまいますが、本当に僅差だったと思います。
声楽は自分の声を自分だけの楽器にしていかなければなりません。きちんとした楽器になるまでには、発声などの基礎基本が大切で長い時間と経験が必要になります。“歌うことが好き!”の気持ちを大切に、これからもたくさんの名曲に巡り合って、高校、大学、社会人と楽しく歌を続けてもらえたらと思います。
【高校・大学の部】
皆さんそれぞれ良く勉強されていて感心しながら聴かせていただきました。
コンクールで演奏するとき、練習やレッスンの時と違って、緊張からいつものように歌えないこともあったかと思います。もちろん場慣れは必要なのですが、何より本番で自分を助けてくれるのは確固たる発声技術の裏付けに他なりません。今回、音高の不正確さがやや目立ったように思いますので、これからも発声を大切に歌の勉強を続けてください。
それぞれ個性的で美しい持ち声で将来が楽しみな人ばかりでしたので、自分の声質やキャラクター、演奏技術を生かせる選曲についても慎重に選択されると良いと思いました。
また、言葉を伝える技術、フレーズの処理や表現のセンスを高めるために、一流の声楽家たちの演奏を好き嫌いではなく一流であることの理由、共通点を理解できるように“何度も何度も聴く”ことをお勧めしたいと思います。
今回のコンクールでの経験を生かし、これからも素敵な歌を歌い続けてください。
フルート森先生
バイオリン植村先生
声楽・杉江先生
ピアノ練木先生
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